2013年2月14日木曜日

【レポート】モーショングラフィックスの定義(3) - CGとソフトウェア



上の動画はVFXの歴史100年分を一気に遡る、、というコンセプトの作品(初っ端からアレですが、埋め込みだと動画が再生されないので、youtubeのリンクを飛んでみてください...)

VFXというと、今でこそハリウッド映画のドキュメント映像で見られるブルーバックを使ったCGとの多重合成を想像しますが、短編アニメーションではメジャーな手法と言えるストップモーション(コマ撮りアニメ)も、上の動画を見る事で昔の映画では特殊効果の一種として扱われてきました事が分かります。ただ、20世紀末からパペットやストップモーションなどの物質性の伴う視覚効果から、技術的な進歩を大きく遂げた3DCGが活躍することになります。

今回は(過去の二回はこちらのリンクから→ 1,2)、そんなCG表現と、それに欠かせないソフトウェアの話からモーショングラフィックスの関係とかについて色々話せたらな、、、と思ってます。

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■CGアニメーションとモーショングラフィックス



Dir. John Whitney - Catalog(1961)

CGアニメーションといえばこの方。
ジョン・ホイットニーは世界大戦中に使われたアナログコンピューターを改造し、CGアニメーションを制作するためのオリジナルのツールを開発したCGアニメーションのパイオニア的存在。なぜ彼がモーション・グラフィックスの関係をテーマにした話で紹介する必要があるのかというと、オスカー・フィッシンガーやノーマン・マクラレンなどの『視覚と音楽の関係』をテーマにした文脈において重要な作家だからであって、カメラや直感的な手仕事でした作る事が無かった映像をコンピューターを用いて立派な作品として提示した初期の作家だからです。特に注目してほしいのは、自身の著作である『ディジタル・ハーモニー』において、以下のような考えを表明している。



『私の研究の基礎は、まずなによりハーモニーの法則を認めることであり ー(中略)ー ハーモニーの協和音・不協和音のパターンが作る、人を引きつけ、あるいは人を反発させる力というものが音楽以外の分野でも起こりうる、ということが私の仮説である』







Dir. John Whitney - Arabesque(1975)

ホイットニーが最も興味があったことは視覚的な音楽=ビジュアル・ハーモニーを作り出すことで、その方法を手描きのアニメーションやストップモーションといった手作業であったり物質性のともなう手法ではなく、コンピューターで生成することに可能性を見いだしていた。元々ホイットニーは軍事用のアナログ式コンピューターの研究をしていて、それらのマシーンが物理演算などのシュミレーションが、自身が構想していた視覚的なハーモニーを表現するのに適していると確信していたようだ。何より、目的達成のためにツールから作ったことに驚きを感じます。

作品の多くは、簡単な要素(点とか線)の素材が複製され動きも反復されるだけという、シンプルな見せ方から、形と形が重なったり、それらが互いの間によって別の形が生まれてくる瞬間が現れるのが特徴的で、その形の変化と動きに視覚的なハーモニーを見いだそうとした。

上のリンクの作品『アラベスク』は、数式とコンピューターが生み出す光の運動とイスラム音楽の組み合わせは、イスラム教の『数』という概念を神として崇めている思想とリンクし、とても神々しく映ります。






Memo Akten

現代でホイットニーのようなビジュアルミュージック作品を作っている作家だと、vimeo界隈であったらMemo Aktenを思い出します。ホイットニーのアラベスクを彷彿させるオブジェクトの運動によって、DNAの遺伝子配列を彷彿するような、二次元なのに妙な奥行きを感じさせる運動のラグが見てて気持ちよい。なによりアラベスクとは違って、この作品は一つの仕組みによって音楽と映像が生成されてる、、つまり音と絵が組み合わさって一つの意味のある作品として成立するオーディオビジュアル作品ということが分かります。壁に接触することで、ミニマルミュージックのような音楽を生成する仕組みがとても面白いですね。



(あんま関係ないけど)また、上の動画を実写でやったかのような作品もあります。


実写版ビジュアル・ミュージックと言えそうな動画ですが、これは振り子の糸の長さに比例して球体の振れ幅が変わってく仕組みになっています。つまり糸が短ければ1往復するテンポが早くなるし、長ければ球体が往復するテンポがゆっくりになるという単純な構造。







ホイットニーも重要作家ですが、ラリー・キューバも忘れてはいけません。彼もCGアニメーション初期の重要な作家の一人。彼はスター・ウォーズの劇中に使われたデス・スター攻略シーンで使われたCGパートを制作したことで有名なんですが、彼自身もホイットニー同様に音楽のハーモニーの可視化を試みたような幾何学アニメーションを発表しています。



Dir.Larry Cuba - Calculated Movements(1985)
下のリンクはMotiongrapherで掲載されたラリー・キューバの記事。

http://motionographer.com/2008/03/31/larry-cuba-star-wars-computer-animation/


いまではAfterEffectsのような直感的なツールのおかげで、数学の知識がなくてもコンピューターを使って映像が作れるようになりましたが、CGアニメーションが作られた当初は、必然的に数学の知識が必要になります。しかしホイットニーもラリーも数学者ではなく、最も興味があったのはフォームや運動を作るための構造であって数学そのものではなかった。自分が追い求める芸術のためにハードそのものから開発して映像を作ろうとするテンションに頭が下がります。。

それと、数学と美術の話を結びつけた話を聞くとアーティストの木本圭子さんのインタビュー動画を思い出す。

木本さんやホイットニー、そしてラリーの作品のような抽象性の高い映像は、制作プロセスは数式やテキストといったプログラム言語を扱うのにも関わらず、観る者の感覚に優美なイメージを与えてくれるギャップが美しい。


(BGMスゴい。。。)

インタビュー中の木本さんの発言も印象的。


「最初に感性があるというよりも、構造の面白さがあって、それを追いかけていく過程で自分の感性と合致しはじめる」

「私は数学者ではないので、数学的に正しいかどうかは分からない。だが、数学を用いることで逆にイメージが広がって自分の知らない美しさに出会うことがある」







Dir. WOW - Motion Texture


日本のデザインスタジオWOWによる映像作品集。
Motion Textureは初期のCGアニメーションと制作背景や思想面では異なりますが、
ホイットニーを彷彿させる動きの調和を作っているソフトウェアはCinema4Dという3DCGツール。3DCGのソフトウェアの中でも特にCinema4Dはモーショングラフィックスを作るのに最適なソフトと言われおり、その理由はインターフェイスがAfter Effectsに似ていると言う点や、オブジェクトの複製パターンがグリット的なデザイン表現にマッチしてて、動きやオブジェクトの反復などホイットニーの時代のCG作家が開拓した表現をソフトウェア自体が引き継いだように思えます。それが、僕が現在のモーション・グラフィックスとホイットニーなどのCGアニメーション作家の文脈と繋げたがる理由です。

また、After Effectsであれば、CS3以降ベクターベースのシェイプによるアニメーション表現が可能になったことによって、素材の合成や加工(風合いとか質感のようなもの)に注目されがちだったのが、中村勇吾のような洗練されたモーションデザインのビデオが00年代後半から出現するようになってきました。シェイプレイヤーはアニメート以外にも素材の複製や線の加工を数値入力で加工できる点も過去のCGアニメーションのような要素を複製反復させた表現と重なる部分といえます。

このように、ツールの進化にともなって作り手のイマジネーションやトレンドとなるアプローチが変わっていく流れを見ると、先に紹介した木本さんの『数学を用いることで逆にイメージが広がる』という言葉を思い出させます、つまり、テクノロジーを用いた表現はツールが作り手のイメージを拡張させてるんじゃないか、と感じさせるところがあるのです。




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■ソフトウェアとハイブリッド表現

さらに現代ではAfter EffectsやCinema4Dなどのデスクトップ上でモーショングラフィックスが作れるようになり、次第に手書きのアニメーションや実写映像などの素材がCGと融合し、コンピューターだけでは完結しない表現が生まれたことによってモーショングラフィックスの定義が曖昧になってきたと考えられます。

特にコンピューターの特徴といえば、オブジェクトを複製する『コピー&ペースト』が挙げられるでしょう。ここでCGで完結してないビジュアル・ミュージック作品の例をご紹介します。




Eyes by 辻川幸一郎
男性と女性の瞬きする動画素材二つのみで作られた作品。




Kingdom Crumbs - Evoking Spirits... by ori toor
手書きのアニメーションを膨大なコピペをレイヤー構造を与えてつくられた、まさに量が質を生んだ作品。



Roaster by blobby barack
こちらも手書きの素材をタイムラグを起こして新しい形を生む瞬間を与えたアニメーション作品。




手書きにしろ実写にしろ、オブジェクトの過剰な複製表現は、その作品においてコンピューターの依存度が高いことを証明しているし、ジャンル付けを考える際にモーショングラフィックスという言葉を想起させるのは、ホイットニーの『アラベスク』や『マトリクスⅢ』などのオブジェクトの運動によるラグ表現をダブらせるからだと私は考えています。



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さらにCG表現が一般化した時代(ハード・ソフトの低価格化とyoutube・vimeoが普及し作り手が増加した00年代)にモーショングラフィックスのようなデジタル表現をアナログで再現したような映像作品が出現して、モーショングラフィックスがより曖昧な定義になっていきてるんじゃないかと僕は考えてます。


モーショングラフィックス的演出を実写で再現 その1



モーショングラフィックス的演出を実写で再現 その2


PRESS + from ducroz on Vimeo.
デジタル(3DCG)をアナログ(紙に出力)に変換



ビジュアライザー的表現をストップモーションで再現。




実写、3DCG、2DCGの融合+シルクスクリーンのようなグラフィック処理



Flashアニメのようなベクトルアニメーションを手書きで表現。
ちなみにRichard Negreは、毎月1本(一年かけて12本)の抽象アニメーションを作った面白い作家さんなので、彼のvimeoページでぜひチェックを。


などなど、
それまでグラフィックデザインと映像が融合した表現がモーショングラフィックスと言い切れたことが、次第にハイブリッドになったりアナログでデジタルな表現を再現することによって、モーショングラフィックスの定義が曖昧になってきました(というか、元々この文脈は作り手が圧倒的に多く、文脈を整理するキュレーターや評論家がほとんど居ないのが致命的だと感じます)





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■まとめ
CGアニメーション&ソフトウェア表現が可能にしたこと

  • CGアニメーションはビジュアルハーモニーのために採用された手法
  • ソフトウェアが初期のCGアニメーションの作家の方法論を継承している
  • 過剰なコピー&ペーストが可能になる
  • ハイブリッド表現の出現(によって定義が曖昧になる)
  • アナログがデジタルを再現する表現の出現(さらに定義が曖昧になる)
が挙げられます。
モーショングラフィックスがなぜ初期のCGアニメーションと関係性が見いだせるのかも、ソフトウェア自体が初期のCGアニメーションの運動の反復や素材の過剰な複製表現を可能にしたからだと考えられます。そしてデジタル表現そのものに敷居が低くなったことで、ハイブリッド表現の出現やアナログ的な手法でデジタル表現を再現する表現も生まれていったんじゃないかと考えられます。

CGアニメーションとモーショングラフィックスを結びつけることで、より広い文脈を考えていけそうな気がします。例えばナムジュン・パイクなどのビデオアートがビデオエフェクトの表現を開拓したり、近年のギーク文化やメディアアート表現からの影響(グリッジやアンチエイリアスをかけてないカリカリCG、3Dスキャン映像、GIFアニメ、ジェネレイティブetc...)とCGアニメーションの関係も踏み込む必要もありそうですが、このエントリーだけだとまとまりきれないので、また別の機会に。。。


モーショングラフィックスの文脈の記事は、コレ以降は気が向いたときに更新する予定ですが、自分なりにまとめてみて思ったのが、モーショングラフィックス文化として開いてるおかげで色んな文脈から美味しい要素を吸収してビルドアップしてるんだなー、と。というか調べれば調べるほど、どう定義して良いか分からなくなってしまったという(雑な感想ですが、、、)


本業は、自分の正しさを形で証明していくので、文章で証明していく活動は今度力は入れませんが(元からそんなに頑張ってはいないけど、、)またなにか気になることがあったら記事をリリースしていこうと思ってます。









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