2018年2月1日木曜日

EVOJAPAN ヴァンパイアセイヴァートーナメントのPVを作った

ここのblogは普段の映像ディレクターとしての活動とか事例の紹介のために書いてるんだけど、個人的に感慨深いことがあったので記録に残したいと思う。


・まえがき(ほぼ自分語りなので興味ない方はスッ飛ばしてください)
・格ゲーPVについて
・運営サイドとの目的共有
・各告知物の狙い
・PVを構成する要素
・作ってからの反応
・あとがき

まえがき

アメリカ・ラスベガスで行われている対戦格闘ゲーム(以下格ゲー)コミュニティの大規模なイベント「evolution(以下EVO)」が「EVO JAPAN」として日本に上陸し、2018年1月26〜28日に池袋サンシャインと秋葉原スクエアで行われた。格ゲーに普段馴染みがない方でも、近年「e-sports」というゲームを用いた競技を意味する言葉は耳にするかとおもう。そのe-sportsのなかでも格闘ゲームというジャンルで最大規模のイベントが「EVO」であり、そのイベントが日本でも行われるというのは格ゲーにちょっとでも興味がある人であれば大事件なんじゃないかとおもう。

私は小学生のころ父方の両親の家に遊びに行くと近くにあるゲームセンターにも遊びに行く習慣があって、そのときに初代サムライスピリッツと出会い、CPUに真っ二つにされ、敗北=死という当時小学生だった私にトラウマ経験を植え付け、そしてグラフィックの美しさに圧倒されて格闘ゲームにのめり込んだ。

中学〜高校時代は格闘ゲーム(カプエス2やギルティ青リロ、そしてキャリバー2)に熱中していたが、過酷な美大受験に専念するためにアーケードゲーム文化から一旦離れ大学入学後も制作が楽しすぎてそのまま30歳近くまで格ゲーから遠ざかっていた。

大学院を修了してそのままフリーランスのモーションデザイナーとしてキャリアをスタートさせた私は在宅作業が基本なのでお昼を食べながらyoutubeを見たりするのだが、そのときにたまたま出会った高田馬場にあるゲームセンター「ミカド」の大会実況動画には稼働20年以上経った(言い方がやや失礼になってしまうけど)古いタイトルをいまでもやり込み続けて攻略を進めている文化があることに衝撃だった。

そこからミカドの動画を見ながらお昼を食べる習慣ができてアーケードゲーム文化に(動画勢として。。。)再び戻り、そして一昨年(2016年)の夏、一度倒産したSNKが再建されKOFシリーズの新作がリリースして、そのタイミングで好きなゲームメーカーの復権ということもありPS4とKOFの新作を購入、その後仕事で格ゲーを題材にしたMVを演出することになって、少年時代の格ゲーへの思いが爆発してゲームセンターにも通うようになり、いまではすっかりヴァンパイアセイヴァーにハマりセイヴァー勢となっている。

そんな私がEVO日本上陸、そして今現在楽しんでるゲーム「ヴァンパイアセイヴァー」の大会も行われるなら絶対自分がPVを作りたいとおもっていた。ゲームを卒業していたとはいえ、私が作るアニメーションもゲームからインスパイアされたものが多く、何かしらの形でゲーム文化に対して貢献できればと思っていたので、とても良いタイミングだったとおもう。


格ゲーPVについて
スマホのカメラ機能も向上し、SNSでも動画の投稿が気軽にできるようになった今日、映像を扱ったコミュニティのアピールがとてもしやすい環境になったといえます。特にtwitterはTLに動画が現れると自動で再生させるような仕様になってるので、目に止まるとそもまま映像を見てもらえる可能性が高いです。

ゲームメーカー主催でなく、コミュニティ主催の格ゲーPVはイベントの趣旨によって映像のトーンを合わせていくなど作りが器用になっている印象を受けました。その最たる例がプロゲーマーの梅原大吾プロデュースした獣道の一連のPV。因縁のあるプレイヤー同士を10先(連戦して10回先に取った方が勝利となる試合方式。つまりどちらが強いのかが現れやすい)させるイベントの企画性をしっかり映像で伝えるという狙いがしっかり形担っていたと思う。


そのPVはスパⅡXは「関東のこたかvs関西の兄ケン」ギルティは「光の小川vs闇のまちゃぼー」ストⅢ3rdは「攻略の弟子犬vs天才のヌキ」みたいに相反する関係を本人のインタビュー以外にもウメハラ本人の発言や周囲の関係者の発言も組み合わせることで対象のプレイヤーがどれだけ凄いのかを様々な視点で描いて立体的に浮かび上がらせている。この構成を作るには映像制作者や企画を立てた人が格ゲーに詳しくないと出来ない。

映像の品質という意味では特別フォーカス感が気持ちよかったりライティングの綺麗さといった美麗な映像ではないけど、伝えたいことが明確にあって、そのための手段が適切なら細かいテクニックは作っていく過程で勝手に後からついてくる。

そういうわけで、PVを作るにはイベントの趣旨とか面白さは何か?それを魅力的に伝えるためにはどんな手段をとれば良いかを考えれば良い。そのためには大会運営をするスタッフとのコミュニケーションが大事となる。


運営サイドと共有した目的設定
私自身セイヴァー勢ということもあって、セイヴァーのコミュニティのなかでもミカドの月例大会を運営してるえごさんが今回のEVOJAPANのセイヴァー大会を運営するのは知っていて、えごさんとも顔見知りではあったし、アーカイブ制作から告知まで大会開催前後の運営までしっかり継続していく人物という認識だったので、PVを作るうえでの不安はあまりなかった。

PVを作るまえに、えごさんと簡単なメールのやりとりで目的設定と告知の流れを一緒に決めていく。


目的
  • EVOJAPANという大きなイベントをキッカケにセイヴァーに興味を持って欲しい
  • 関東の月例大会に参加してる人以外も出場してもらえるようにしたい

私も学生時代に学生主体の展覧会運営とかやっていたので、SNSを利用した告知の大切さとしんどさは理解していた。というのも、告知する側は何かしら新しい情報であったり受け手に興味を持ってもらうためのフックを用意する必要があるので、いざ告知してRTもファボももらえないと結構凹むので、コンスタントに告知するのは意外とメンタルが消耗してしまう。

そこで、gifアニメみたいな短いアニメーションのループする告知物をたくさん作ってコンスタントに告知できるキッカケを作る提案をしつつ、PVは大会のムードが伝わるように対戦実況動画の名シーンを編集したPVを作ることになった。


告知の流れ


  1. gifアニメ告知をコンスタントに投下して大会を認知してもらう
  2. 凝ったPVを公開してさらに参加を検討してるプレイヤーの気持ちを煽る
  3. ダメ押しのエントリー締め切りカウントダウンgifアニメを投下

こんな感じで段階的に告知をしていく計画を立てたが、実際想定していた内容と実際に作ってみると多少のギャップが生まれて(創作活動では日常的に起こることではある)以下のような流れに多少変わった


  1. ハンター&セイヴァー共同の告知PVの投下して拡散性を上げて認知を狙う
  2. 凝ったPVを公開してさらに参加を検討してるプレイヤーの気持ちを煽る
  3. ダメ押しのエントリー締め切りカウントダウンgifアニメを投下

ハンターとの共同告知が尺的にgifにしにくかったのでPVにしたら意外と良い感じの出来になったし、一発目の告知に変更することになった。それ以外は計画通りだったとおもう。



各告知物の狙い





  • コンスタントに告知するためにgifアニメをたくさん作る
当初はハンターと共同の告知ネタのgifも作ろうとしたが、尺の関係でPVに変更。

gifアニメは主にエントリー締め切りカウントダウン用にたくさん作った。
運営サイドがコンスタントに見出しのある告知ができるため用。

短いコピーを3段構成にしたループアニメーション。
gifアニメは限られた情報しか載せられない。カウントダウン系にはもってこい。




  • 過去の対戦動画を交えたPVを制作
大会に参加すれば絶対楽しいはず。大会のムードが伝わりやすい実況動画が必要。
セイヴァー勢の協力で速攻候補が素材が集まる。

twitterのTL上に流れるので小さい画面でも目立つような見出しが明快な演出にしたい。





  • ハンターとの共同告知は尺の都合でPVになり、結果PVの第一弾となる
ハンターとの共同告知はえごさんのアイデア。ナイスです。
第一弾PVで、ハンター勢の協力もあって一番RTが多かった。

twitterで動画や画像を公開する際に正方形にすることでTLの保有する色面が大きくなる。
ソシャゲの広告とか良い参考になる。

カプコン公認の大会なので冒頭にベンガス先生のイラストを使って引きを強くする。
もちろんEVOJAPANのロゴも使ってEVOに向けての気持ちを煽っていく。

情報はとにかく絞る。
gifと同様にできるだけ映像の尺は短く簡潔な内容にしたいので伝えたいことは絞る。



だいたいこんな感じで告知物の狙いはだいたいこんな感じ。


演出の込み入った話
演出の込み入ったことを話すまえに一点気を使ったことは「作り方を知ってしまえば誰でも作れそうな構成」を意識した点だ。もし他のコミュニティの人がセイヴァーの大会PVを見たとき「俺たちでも作ってみよう」と思えるシンプルで真似しやすい構成にすれば、自分たちのコミュニティの楽しさ・熱さが伝えられると思う。

そういう意味では、ソフトを扱う高度な技術よりも大事な事は伝えたいことは何か?これに尽きる。どんなにカメラを上手く扱おうがAfterEffectsを駆使したナウみのあるモーションが出来ようが、誰に何を伝えたいかビジョンを明確に持たないといけないし、目的に対する手段がズレてもいけない。


伝えたいこと

1月26日にEVOJAPANが行われて、そこでセイヴァーのシングル大会がある 
PVを作ることが決まったのが1月すぎてからなので、新規に向けた凝ったアピールを企画してそれを表現するには時間が無いので難しそうだなと思った。でも、コミュニティの熱さを表現できればちょっと興味のある新規の方を巻き込めるかもしれない。


表現手段

実況動画とド派手はタイポグラフィで参加検討してるプレイヤーを煽りまくる
まず外を煽るまえにまず身内の熱を上げていこうと考えた。対戦実況動画はうってつけの素材で、セイヴァー特有の異様なゲームスピード上で繋がる怒涛のラッシュにド派手なEX技、そしてハイテンションな実況と歓声など大会の賑わう光景が想像しやすくなる。

そこを土台にコピーの内容はEVOJAPANの大会の情報をドでかくレイアウトしてスマホのながら見でも目を引く構成にした。



PVの構成レシピは
  • イラスト(ベンガス先生のイラストや新人大会のポスターなど)
  • タイポグラフィ
  • 対戦実況動画
  • セイヴァーの音源
  • 著作権フリーのフッテージ
  • evojapanのロゴ
  • セイヴァーのロゴ

の7つになる。



イラスト


女体サスカッチ可愛いです
えごさんからセイヴァーの公式ポスターの高解像度(←超重要)データと過去のミカドで行われた新人大会のポスターの画像をもらう。大会ポスターのイラストを描いてくれる人がいるコミュニティは個人的にそれだけ現場に良い雰囲気が流れてることが想像できるので、極力公式のイラストよりもファンアートの方がセイヴァー勢の大会のムードが演出できるんじゃないかと考えていた。(関係ないけど、ミカドのセイヴァー筐体に張ってる月例大会のガロンのイラストをBuzzさんが描いたのは衝撃的でした)

とはいえ、イラストを映像の素材として使うことを想定して描いているわけではないので、解像度もそこまで高くないので使い方に限りがあった。途中でヴァンパイアシリーズのアートブックをスキャンしてマスク切ったりしたわけだが、ヴァンパイアシリーズはキャラクター人気がとても高いので、イラストを使うだけでも引きは強くなると想定できる。実際サムネイルをセイヴァーの集合イラストにしたヴァンパイアシリーズの大会PVは190RT近く結果を出してハンター勢の協力もあり想像以上に拡散された。





タイポグラフィ
セイヴァーはドット絵だけど洗練されたキャラクターデザインや、格げーサウンドには珍しい主旋律がクドくないスタイリッシュなサウンド、そしてスピード感のある対戦風景など、現行機のゲームしかやらないプレイヤーでも目に引く要素はたくさんあると思った。



そこで、近年のゲームのデザイン周りの傾向としてあまり装飾的でないグラフィクアルなデザインのニュアンスをPVにも取り入れることを考えた。例えばARMSやペルソナ5といったゲームのデザインはこれまでの半立体的なグラフィックデザインではなく、平面的・図案的なタイポグラフィなのがわかる。このフラットルックなデザインにすることで「新規が入りやすいムード」を表現したかった。

それと、フラットにしたかった他の理由としてはスマホのtwitterのTLに映像が流れることも想定すると画面いっぱいにコピーがでっかく構成し、パース(遠近感)も付ければ伝えたい情報がハッキリ伝わる映像になるんじゃないかと考えた。


修正前のキャプチャ


修正後のキャプチャ

書体選びは当初はセイヴァーの世界観を反映して「怪しさ」みたいなものを意識したディスプレイフォントと明朝体を中心に構成にしたが、可読性を優先してほしいという要望でゴシック系のフォントと、ディスプレイフォントも癖が強すぎないものにするなどフォント周りは制作途中で大きな見直しをすることもあった。

グラフィックの専門的なことは難しそうと思うなら、macユーザーであれば初期装備で入っているフォントで限定すると安定行動として使えそうな書体は



ヒラギノ角ゴシック


(最新のOSだと游ゴシック体も使えるらしいです



Helvetica


Futura

癖がなく、扱いやすいフォントだとおもう。あとは注目させたい項目の文字を大きく・太くしたり斜傾をかけてアクセントを付けるとか小技とか入れると良い感じになるとおもう。


実況動画
えごさんの呼びかけでセイヴァー勢が迫力のある対戦シーンがあがってるyoutubeのリンクを教えてくれた。この辺は本当にコミュニティの協力が必須なので、早い段階で素材に使える動画が集まって助かりました。

映像の素材のほとんどがこの対戦動画なので、乱暴な言い方だけどパっと見似たような絵の連続になってしまう。そのため変化を持たせるためには素材の加工が必要で



通常の画角

ズームアップ+モノクロ

イラスト+単色かぶせ

だいたい3つくらい見せ方に差を付けるとメリハリができる。


音源
音源はセイヴァーのオリジナル音源を使っているが、PVを作るときに気をつける点は音源によって映像の構成が左右されてしまう。例えばセイヴァーのOP曲を使うとすると音源の盛り上がりに15秒近く時間がかかる。

曲の盛り上がりに対して映像の構成も引っ張られやすいので、twitterで動画がアップされたときを想定すると一番見せたいシーンになる前に飽きてスクロールされてしまう可能性があるので早い段階で曲が盛り上がる音源を選ぶと良い。そういう意味で朧ビシャモンとステージ進行の音源は開始から曲が盛り上がるし、キメ(メロディとキックが同じタイミングで刻まれる)も多いのでとてもPVにしやすかった。


フッテージ
背景に使ってるインクが水中に落ちる映像やインクが紙にしみ込む映像は実際に自分が撮影した素材ではなく、著作権フリーの素材集を加工している。このような著作権のない素材をフッテージと呼ばれる。


元の素材は白バックに黒いインクでした

ヴァンパイアにちなんで流血感のある背景素材が欲しかったのと、自分で1からモーション素材を仕込むのは面倒だったのでフッテージを使った。手早く凝った雰囲気の映像を作るならフッテージ探しをしてみると良い。できれば海外のサイトとかのほうが安価でフッテージが買えたりするけど、国内ならamanaのストックフォトとか有名。ちょっと高いけど。。。


EVOJAPANとセイヴァーのロゴ
EVOという格ゲーコミュニティ最大規模のイベントなので、そのイベントを象徴する矩形のロゴを必ず画面のどこかに構成することで、普段のセイヴァーコミュニティで行われている大会とは違った「EVOのセイヴァー大会」であることを念押ししたかった。セイヴァーのロゴもオフィシャル公認のイベントなので惜しみなく使わせていただきました。





作ってからの反応
実際作ってみると私もゲームの大会PVを作ること自体初めての経験で、勝手に気分が高まって初期衝動的に本編PVからヴァンパイアシリーズの大会としての告知PV、さらに大会のトーナメント表が公開されたときの煽りPVとか色々作ってしまった。(投下するものをたくさん作りすぎて運営側が告知文章を考えるネタが尽きてしまわないか心配だった)

ハンターセイヴァー共同のPVは190RTに6000再生以上と良い滑り出しだったし、対戦動画のPVも累計すると8000再生以上された。えごさんのmixiの日記によると当日参加してくれた100名中、現役プレイヤーが70人で海外、古参、新規がそれぞれ10人だったらしい。

新規を増やすという当初の目的で考えれば難しかったが、EVOJAPAN開催前に都内のゲームセンターでの対戦会でセイヴァー勢と会うとPVの話になって、とても好評で安心した。なにより参加するプレイヤーのモチベーション向上や参加検討の後押しになったのでPVを作って良かった。



あとがき
自分は格ゲー文化を子供のころから親しんでたけど、大学受験をキッカケに現在の格ゲーシーンの情報にだいぶ疎くなっていて、獣道をキッカケに3rdは弟子犬が最強だったりスパ2Xはこたか商店という若いガイル使いが強いとかそのコミュニティを象徴するプレイヤーをPVやイベントを介して初めて知ったし、そのコミュニティのムードや熱さも伝わってとても面白かった。

今回の一連のPVでセイヴァー以外の人にどれだけ伝わったのか謎だし、すぐに結果に結びつくとも思ってない。でもEVOJAPANでのセイヴァー大会の雰囲気は今回の件でわかったし、もし来年まで自分がセイヴァーを遊んでいればまたPV制作に関わりたいとおもった。仕事や自主制作以外にも少し時間ができたら面白いPVであったりセイヴァーをアピールする映像を企画提案できればとおもう。

あとPVを公開してから同業である映像・デザイン関係の仕事してる友人がPVに反応してたのが面白かった。「昔ビシャモン使ってた」とか「なぜスト2とかでなくセイヴァーなのか?」とか普通に「PVかっこよくて大会に興味持った」とか「大会の配信見て面白かった」とかいろんな反応があって面白かった。

冷静に考えれば司会者でもなければyoutuberでもない普通のおじさん達がカプコンのスタッフが横にいるのに場馴れしてカメラの前で実況解説してる姿を見るだけで「面白い現場」が伝わってくるんだとおもう。異様な光景である。

大学で美術を学んでゲーム好きだったころの気持ちを一旦捨てたけど、30歳過ぎてからまたこうしてアーケードゲームの文化に戻れてとても楽しい。周りが自分より経験者が多いので美術の世界にはない「勝ち・負け」という概念を突きつけられるのは時に凹ませるときもあるけども。

最後にEVOJAPANとサイドトーナメントを運営したスタッフのみなさん、そして大会を運営していただいたセイヴァー勢の皆様本当にお疲れ様でした。


2018年1月11日木曜日

「DAOKO - ぼく」MVについて

DAOKO - ぼく
Director: takashi ohashi
Character designer: 丸紅茜
2D animator: yukie nakauchi, スズキハルカ, ryosiro
3DCG Designer: tetsuji ono(UZURA)
Graphic designer: kento mori 
Photographer: kenichi inagaki

12/20リリースのDAOKO2ndアルバムの初回特典盤に収録されている「ぼく」という楽曲のMVを企画+演出+コンポジットとかモーション担当しました。「キャラクター化したDAOKOと歌詞が組み合わさるリリックビデオを作って欲しい」というお題を総監督の佐伯さんからいただいて、曲のタイトルも「ぼく」なので現代において自己を語る面白いテーマは「自撮り・インスタグラム」だなとぼんやり考えながら企画を固めていきました。

実際仕上がったMVは「AR自撮りアプリで遊んでたらARの世界に吸い込まれてネット空間をさまよう」というプロットに固まったんだけど、なぜ上記のプロットが固まったのか?実際作ってみて参考にした作品や気を使ったところはどこかを言及した記事になってます。

今回の記事の流れは

MVを作るにあたって目標にした作品(リファレンスの紹介)
直面した問題点と解決法
各要素の解説



と、だいたい流れはこんな感じ。


IU”Palette”の影響
元々インスタを題材にしたMVを作りたかった理由にIUという韓国の女性シンガーのMV”Palette”の影響が強かった。ライティングに拘った艶っぽいIUの魅力は勿論、唐突に差し込まれるグラフィカルな物撮りインサート、IUのパーソナルを描くモチーフとしてのインスタグラムのスクエア、そして力の抜き加減が絶妙なレイアウトやワイプ表現など、MVが公開された2017年当時のムードをビジュアイズしていて何度も繰り返し見た。


今回のDAOKOのMVではIUのMVの影響をモロに受けてるカットがいくつも登場するし、工数の問題に直面したときも「物語シリーズ」の影響もありつつも、土台になってる影響はこのIUのMVだ。

自分はアニメーションの監督だけど、KポのMVみたいなムードを描いたMVを作りたい!!!という衝動がハンパじゃなかったし、DAOKOの曲を聞いたときは緩やかなシティ感のあるブレイクビーツやチルウェーブ的な転調など歌謡曲的な作りになっていないので、KポみたいなMVが作れるかもしれないと直感した。

他にもKポではないけど影響を受けた作品としてARやヴァーチャル空間を題材にしたプロットになったので、LOVESTREAMSや、同じ現実だけど世界線(パラレルワールド)を題材にしたシュタインズゲートという作品の影響もかなり大きい。

しかし実際上記を参考にして5分以上あるMVを作るためにはいくつか障壁を乗り越える必要がある。それは作画アニメの工数の問題だ。


工数の問題
女学生+リリックというスタイルは文學少女四味一体に続いて今回で3回目になるけど、シティ感のある緩やかなブレイクビーツとサビのあとにもう一度大きな転調(というかチルウェーブ風のダウンテンポ)が展開される構成で、初めて曲を聞いたときの印象は尺も長く展開の弱いメロの割合も多くて映像にするには難しそうな曲という印象だった。

難しいと感じた理由にはアニメは予算とスケジュールを逆算することで作画アニメの工数が決まってゆき、その時点での作品で出来る演出の振り幅が決まってくる(どれくらいの作画アニメを入れられるのか、CGの撮影が出来るのかetc...)。いくら監督がどんなに気合のこもったコンテを描いても水道やガスのように蛇口を捻れば作画が湧いて出てくるわけではない。アニメーターにも生活があるので現実的に作れるアニメの工数には限りがあるのだ。

バジェットで作品の規模感が決まってしまう話は貧乏くさいしダサいけど、自分以外のスタッフを巻き込む以上、工数とどう向き合うか避けては通れないことである。音楽系の案件はとにかく予算が限られてるので、アニメーションを使った演出の場合アニメーターの負担にならないようなキャラデザをするのが最適なのだが、今回はそうはいかなかった。


演出の方針を決定付けたキャラクターデザイン
企画を固めてる段階でキャラデザは同人作家で人気の丸紅茜さんに決まった。私自身も大ファンの作家(コミティアで同人誌も買った。。。)なんだけど、実は最初は丸紅さんをキャラクターデザイナーに起用するのは反対だった。

丸紅茜さんのサイトから拝借
所謂プロダクションワーク的な細かな分業によって作られるTVアニメのキャラデザとは違って、イラストレーターの手癖のあるタッチと自然な人体のプロポーションが土台のキャラデザは高い画力が必要なため、予算と制作期間的にリスクが大きすぎると想定できた。

そして予算の都合上MVで使われるアニメのバリエーションが少なくなりがちである。例えば大抵「歩く」アクションをループさせまくる演出が多いのも「動かさなければ間がもたない」という前提がある。そしてこの素材の使い回しっぽさが映像の安っぽさと繋がってしまう。

丸紅茜さんのサイトから拝借
しかし丸紅さんの作風なら頻繁に動かさなくてもレイアウトで持たせる説得力のあるデザインが上がってくる可能性もあると思うようになってきた。丸紅さんの作風のもつスタティックな趣というか、止め絵だけで保たせる説得力のあるキャラデザはアニメーションMVで必須の「作画枚数で物を言わせたパワープレイ」とは違った演出の提示が出来るんじゃないかと思えてきた。

もし、丸紅さんがキャラデザでなければ、今回のMVの演出のようなレイアウトだけで見せるような演出をふんだんには取り入れなかったと思う。自分の思い通りにならないことが悪い結果に結びつくこともないし、結果、座組みの妙だなと終わってから気付かされた。

そんなこんなで「ぼく」を聞きながら


バジェットと制作期間を逆算してアニメの工数を見積もる
(丸紅さんのデザインをアニメーター三人別件平行しながら3週間抑えると一人につき8種類前後かな。。。)



可能な工数と楽曲のムード・テーマを辻褄合わせして考えられる企画と演出を提案

(尺長いし1コーラスにサビ二回あるしCGだけのシーンがほしい)



起伏のないメロの尺が長いのでグラフィカルなレイアウト中心でも成立する演出が必要

(背景に写真メインとかグラフィックだけのインサートを入れよう)



自撮りアプリとARアプリを融合した架空のアプリを題材にしたMVにしよう

(レイアウトで勝負できる)

上記の流れを咄嗟に思いついた。

ちなみにDAOKOのデザインは制服姿なんだけど、「かけてあげる」のMVとは違ってブレザーを羽織っている。これはバストアップをたくさん描くことを想定してるので、バストアップだけで見ると青いニットをきてる女の子にしか見えない可能性があるので、ブレザーを羽織っているというのがそのの理由である。


アニメーターの割り振り
アニメーターを三人抑えることが出来て、曲の構成もメロはレイアウト中心でサビはガッツリ作画アニメにする構成が決まった。アニメーターの得意とするトーンや画力に合わせて割り振りを決めていく。

描くキャラは一人だけなんだけど、なにぶん制作期間の短さと工数を考えると出来るだけアニメーターには制作のストレスを感じさせることはしたくなかった。そこで、それぞれ担当するパートをアングルの寄り引きでまとめることにした。

レイアウト中心(一部簡単なアニメーション)... スズキハルカ
バストアップ中心のアニメーション... ryosiro
フルフィギュア〜ニーショットのアニメーション(一部バストアップ)...中内友紀恵

だいたいこんな感じの割り振りになる。


レイアウトメインに担当してくれたスズキさんはイラストレーターとしても活動してるのでレイアウトが大事なシーンは任せられると判断しました。実際仕事がとても早くて20カット近くあるレイアウトを他の作画アニメのパートを平行しながら2週間半ぐらいで仕上げてきてくれて、早い段階で仕上がりのイメージを作っておきたい立場としてとても助かりました。



バストアップを担当してくれたryosiroくんは、中内さんの紹介でアサインした。元々twitterで女の子を描くのが上手い人という認識だったのでバストアップは任せられると思ったし、二次創作のような他人がデザインしたキャラを自分のものにしていくスキルもあるので、安心して任せられる。


フルフィギュア〜ニーショット担当の中内さんは、自分の仕事でなくてはならないアニメーター。画力がとても高いので、難しいとされるフルフィギュアのアニメーションも丸紅さんのタッチを完全に再現しながらカッコよくアニメートしてくれて映像の完成度に直結するシーンをたくさん描いてくれた。そしてとにかくDAOKOを可愛く描いてくれて最高でした。


工数に合わせてプロットを詰める
なんとなく工数と曲の尺で考えられる見せ方としてグラフィックや写真、CGのインサートが使える題材を探していた。インスタという題材でもそれらのモチーフは使えなくもないけど、どうしても自撮りするDAOKOを中心に使わざるを得ない設定になってしまうので、インスタ以外にもう一つ題材を用意して組み合わせる必要があった。

そこで「ぼく」という曲の印象的だったところを掘り下げていくと、この曲をリリースした当時メジャーデビューしたばかりの若いアーティストがインディーズ時代では好き勝手曲を作ってきたけどメジャーになって大衆に届けなくてはいけないという立場になったことでの自信の無さを赤裸々に書いてるところだ。

特に「何なんだ気にしない神経羨ましいんだ図太い人間が」がSNSで他人が作ったものに対して無神経な言及をする図が思い浮かんだし、なんとなく陰湿で悪意を感じさせる文体だったので、ネット空間をイメージした世界観が描けるんじゃないかと思った。

そこでインスタグラムのようなアプリにARの機能が搭載してて、撮影した位置情報を記録してカメラを翳すと撮影した場所に写真がマッピングされるという架空の自撮りアプリ「ぼく」を題材にしたMVがここでようやくまとまる。そしてこのARの世界にDAOKOが吸い込まれて自撮りした自分と向き合っていくという大まかなプロットが形になった。


CGで描くチルウェーブとインターネットの世界
ベットルームミュージックも死語と化した2018年だが、クラブに行ったことないけど妄想でクラブミュージックを作る世代に生まれた音楽の一つ「チルウェーブ」が、今回の演出に大きなヒントを与えてくれたといっても過言ではない。

サビのあとに唐突に転調しながら耽美で霞みがかったシンセ音とヴェイパーウェイブ的な気ダルいダウンテンポなど「ぼく」を初見で聞いた時、とても「インターネットっぽいな」と感じた。というかDAOKOも元々はニコ動出身のラッパーだったし、MVの相談を受けたときインディーズ時代の音源を聞いたときの内相的な歌詞や音源のムードに近くて腑におちた。

ARアプリの世界を描くとき写真以外のモチーフとしてネット空間を使うアイデアがここで生まれた。全編DAOKOの自撮りを題材に描き切るのはさすがに工数的にもキツイし、なにより音楽のムードがダウナーだったので、1パート丸々CG(ARなのでグーグルマップに位置情報を記録したピンをカメラが追っかけてくシーンとか思いつく)の世界にしていった。結果的にそれが「ゆめにっき」のような内省的な空間に相似したと思う。



メロ:自撮りシーン(写真とアニメ)

サビ:アニメがよく動くシーン
チル:CG(ネット空間)

という感じで構成が固まっていった。

チルウェーブという妄想が形になったネットミュージックを扱った楽曲なので、妄想キャリブレーションの激ヤバ∞ボッカーン!!のMVのようなインターネットの平べったい感じや匿名性を感じるリファレンスにしたが今回も同様のことをCGで描きたかった。

CGデザイナーは激ヤバのときと同じくUZURAの小野さんに依頼。小野さんは元々アートディレクターとしてのキャリアを持ってる人なので、「インスタ感」という企画に的確に答えてくれてDAOKOのパーソナルカラーの青を基調にしたグラデーションのトーンの時計のCGを作ってくれたり、また終盤のGoogleマップの世界が崩壊するシーンも、どことなくOZを彷彿させてくれる白を基調にしながら破壊的なトーンにしてくれたりと、世界観を構築するうえで欠かせない人でした。




チルウェーブシーンのマップにスマホのモックが刺さってたりスクエアが複数列をなしているのもvimeoやtumblrで見かけるインターネットのイメージから引用していて、デスクトップのイメージや、CGのフッテージをネットで拾ってきてテキトーに組んだだけの手癖のない匿名性とかをイメージしてる(ちなみにスマホのモックのCGは小野さんが一からモデリングして作ってくれました)

一部小野さんにモデル→アニメートをしてもらった素材をこちらで加工したシーンもあって、リンゴが伸びるシーンや、終盤の背景のグラデーションにはディザリングというGIFアニメをTumblrにアップする際に出てしまう画像の圧縮処理を再現するフィルターを使っている。限られた色数で画像本来のトーンを再現するためにハーフトーンのような点描で色数を稼ぐ処理がGIFを彷彿させるネット空間っぽい趣だと思った。


コストバランスと作品トーンに貢献した写真
歌詞に描かれてる「他者の視線」であったり「自己嫌悪感」を描くためのトーンとして重要だったのは写真のニュアンスだった。画面を保たせる以外にもモラトリアム抱えた若者が社会をどう見ているのかをしっかり描きたかった。

「実写(ないし実写的)+アニメ」のトレンドで考えると京都アニメーションや新海誠作品のようなレンズ感やフォーカス感にこだわったようなルックを想像すると思う。ただ「ぼく」という楽曲には上記の撮影技術で描かれた「青春のきらめき」のようなシズル感は一切ないし、むしろ「ファ○ク・リアルライフ」みたいな社会にモラトリアム抱えた陰湿な若者の視点を感じる写真のニュアンスにしたかった。

この陰湿さは、サビのあとのチルウェイブの転調のくだりが特に顕著で、チルウェイブ自体がクラブに行ったことのない若者が妄想で作り上げたクラブミュージックという文脈もあって、インターネットの平べったい感じによく合いそうだと思った。

そこで、物語シリーズのような「写真+アニメ」のようなレンズのニュアンスにこだわるよりもレイアウトにこだわってるけどフォーカス感に凝り過ぎないスナップっぽさにしたかった。実写のカラコレも美麗過ぎないように明度を落としてアニメの素材を浮き上がらせつつ、不穏なムードを感じ取れるようにしている。(物語シリーズの影響は実写の素材を使う以外にも、グラフィックや文字だけのインサートシーンや日本の古典的な漫画のパロディなど大きな影響を受けた)

また、先に言及したインターネットっぽさは写真の扱いにも及んでて、複数の写真素材を矩形状にラフに重ねてドロップシャドウを落とす見せ方も、デスクトップに散乱するウィンドウやプレビュー画面の趣を感じ取って欲しかったからだ。

ただデスクトップリアリティ的な表現まで振り切ってしまうと、「あーネットっぽさねー」と表層的なところで受け手に消費されてしまう恐れがあるのでmura masaのジャケットぐらいの処理感に落ち着かせた。

写真を担当したのは稲垣謙一というカメラマンでミュージシャンのライブ写真からアーティスト写真まで幅広く活動してるのだけど、彼のラフなスナップもカッコよく、特に舞台が渋谷だったので土地勘的にも強いカメラマンが欲しかったので稲垣くんしかいないなと判断した。


イラストの魅力を引き出すグラフィック
MVは(契約の結び方にもよるが)基本ミュージシャンのものである。そしてファンが喜ぶものであってほしいという願いがあるので企画から一旦切り離して音楽のムードに寄り添ったトーンにチューニングして良いと考えている。インスタとARを題材にしているが、アプリのUIのリアリティよりも音楽のムードやイラストのタッチとの馴染みに合わせてデザインがチューニングされてる方が良いとおもった。

その辺をうまく扱った作品といえば(私はまったく関わってないけど)妄想キャリブレーションの桜色ダイアリーのMVだ。VRギャルゲーがモチーフになっており、現代テクノロジーを題材にしながらも文学的なニュアンスを含んだUIが曲のムードを壊さず架空のギャルゲーの世界観も表現出来ていて素晴らしかった。


劇中に登場する破線のかかったフォントは劇中に登場するグラフィックを制作した森賢人さんが趣味で作ってたBlueInk Fontというフォントを彼が提案したもので、まだキャラデザが丸紅さんになる前に「チルウェイブに合いそう」という理由で私も森さんの提案を採用した。


しかしこのフォントがとてもクセが強くて結論から言うと映像向きのフォントではない。大きく組むと線が均一なので少し大味に見えてしまうし、小さく組むと細いストローク(しかも破線してる)が背景と溶け込む可能性があったりと、結果的にこのフォントを土台に新しく作字することになってしまって、コストの見誤りが生じてしまってデザイナーに負担をかけてしまうことになった。

だが、チルウェイブのゆらぎのあるダウンテンポのムードとか、丸紅さんの破線かかった輪郭線の処理との相性はとても良くて、イラストと組むことで初めて真価を発揮するフォントだった。その辺の背景は森さん自身が同人文化の人であるしイラストレーターへのリスペクトを感じるグラフィックの提案(インスタのスクエア以外が青被せな配色になるとか)をしてくれて、1コーラス目のイラストとの見せ方に大きく貢献してくれたと言える。



まとめ
こんな感じで各スタッフの紹介も兼ねたDAOKO”ぼく”MVの記事について書き終えたけど、こうして自分の仕事を振り返ってみると、vimeoの個人制作映像カルチャーで育った自分としては、多くのスタッフを抱えた座組みによって作られる映像のほとんどが、そのスタッフィングの妙によって趣が作られていくのを改めて実感する。

なんというか個人で作る作品の魅力は、他者と技術やノウハウを共有しないから生まれる小宇宙っぽさというか、固有の言語や倫理観(???)によって作られるので、その尊さが魅力ではあるんだけど、どうしても作品の規模は小さくなってしまう。

だけど、チームによって作られる映像は、技術が共有されることで手癖による個性は出せない替わりに演出した私の想定を超えることが(良くも悪くも)起こるのがとても楽しいし(とてもストレスにもなる)、映像制作はナマモノを扱うのと似ていると先輩監督の言葉を思い出せてくれました。

それと、MVを作るとどうしてもパワープレイ必須なところもあるので、それに対するアンサーを提示したかったんだけど、結局マッチョな演出になってしまったなと反省。でも楽しいんだよ!マッチョな映像制作が!!!

ミュージシャンやそのファンのためのMVが〜とか言及したけど、かなり自分の趣味趣向が全開な内容だったんでDVDにしか収録されないMVだけあってネットでの反応がよく分からないので、感想とかガンガンツイットしてもらえると関係者は切実に喜びます。




毎回コンテ描くときが精神削れる。

2017年12月3日日曜日

2017年に見た気になった映像集

2017年を総括するにはちょっと早い気もするけど、二年ぶりに今年の短編映像・MVの傾向と気になった作品について言及していきたい。

昨年は気に入ったMVや短編作品を年末年始におさらいする記事書くの飽きたなと思って2016年はお休みしてました。vimeoの動画カルチャーも洗練されてきて「vimeo臭」のする作品にやや飽きつつ、ここ数年で動画配信サービスがyoutubeやvimeoの特権ではなくなり、twitterやfacebookなどのSNSでも映像は見れるようになったが、それは映像表現の競争がより激化したと言える。

それによって、バズ的な仕掛けや企画性、そのアイデアを強固にしていく予算と人材によるパワープレイが我も我もと押し寄せてきて自分は正直面食らったし、映像へのモチベーションはかなり落ち込んだ。

金と人材に物言わせたパワープレイ的な映像は、限られた立場の人にしか作れないし何より不特定多数の大衆が「わかる」ものにしなければならないという絶望に近い感情を抱くのだけど、作り手のパーソナルな関心であったり、音楽のムードを適切に汲み取った映像が沢山見れたのはとても自分にとって救いだった。

ものづくりとは限られた人間が作れるものではなく、開けてた方が圧倒的に良い。テクノロジーの進歩によって誰でもモノづくり出来ることを否定的に思う立場の人(相場が安くなる事への危惧とか)もいると思うけど、皆々が競争相手になるわけじゃない。

「映像って良いな」「自分もこういう映像を作りたいな」というポジティブな気持ちを抱かせてくれる作品に出会える文化って良いなと素直に思えた方が良い。

特に自分にとって、IUのPaletteのMVに出会ったのが大きい。IUのMVについては後々言及するけど、今年の傾向としては「温度感」みたいなものが優れてる映像が多く現れたように思う。扱う技巧のバランス感覚であったり文脈の構築の仕方とか、センセーショナルな斬新さで勝負するのとは違った落ち着いた切り口の映像を紹介したい。


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IU - Palette
私的2017年を象徴するMV。 やや雑なモーショングラフィックスやワイプが音楽のややユルいグルーブとムードを絶妙にとらえている。それに加え、美しい物撮りの唐突なインサート、そしてIUの艶かしさといい、編集の心地よさと相まって写真集を見ているかのような充実感がある。

ミュージシャンの漠然としたイメージをカメラが引きと寄りで撮ってあとで編集するようなグラビア的な側面を持ったMVは沢山あるけど、IU自身の歌手としての積み重ねてきた歴史をエモくなりすぎないような温度感で表現してるのが新しい。オシャレな実写MVってこういうことだなと目に焼きついた。


Cup Of Smoke from King Deluxe on Vimeo.

Cup Of Smoke

身内の作家で一番活躍したのはでんすけ28号なんじゃないかと思うくらい、今年の彼の躍進は凄まじいものを感じた。学生時代の彼の作品はCGのもつエラー・バクを意図的に表現に取り入れる作風だった。近年ではそのバグは息をひそめる代わりに、敬遠されがちなCGのもつ空虚さ・冷たさが作品を支配し、その冷たさがとても心地よい。

1993年のジュラシックパークを皮切りにCGの本質であるシュミレーションは、特撮技術の代用品として需要が高まっていったが、デヴィット・オライリーの登場以降CGが「現実の再現」ではなく油絵の具や岩絵の具と同じようにその画材でないと出せない趣があるという発見を得た作家達が出現するようになった。でんすけ君もその一人なんじゃないかと思う。





imai / Fly feat.79,中村佳穂

機構や図形楽譜を感じさせるモチーフの気持ちの良い運動性と、ストップモーションの良さ・魅力で言及されがちな「アナログ感、温かみ」みたいなモノの押し付けが感じられない映像の温度感・距離感が絶妙。




自在に動くカメラワークやコマ撮りの物量とかも凄いんだけど、アイデアや技巧の驚き以上に映像の佇まいやお餅や練り物が動くだけでこんなに映像って楽しくなるのかと感じさせる感動が詰まっている素晴らしい映像だった。このMVを作った麦君はimaiさんの音楽が本当に好きなんだなと感じさせる。彼の最高傑作だと思う。








Tamas from Ruslan Khasanov on Vimeo.

Tamas
動画配信サービスのビットレート向上の恩恵を受けた作品。数年前なら圧縮で潰れてしまうような細かいディザリングのルックを取り入れた映像が出現し、ディザ感というネットに画像をアップするときの軽量化する際の技術が表現に応用しているところが面白い


おそらくオイルペイントをマクロレンズで撮影した実写の撮影素材をベースにディザリングフィルターを加えてアブストラクトなCGのような抽象性の高いルックに仕立て「オイルペイント」という具象的なノイズを排したところが良かった。

トーン(色調)を細かい点描で描くことでビットマップの塊が蠢くだけでゾクゾクするし、CGの本質はシュミレーションではあるけど、もう一方でレンズを通さずともプリミティブな光を描けるんだなと再確認できる。今回紹介した映像は実写素材をベースにディザリングフィルターで加工した映像だけど、ジェネ系とかアブストラクトなCGでディザ感のある映像を見てみたいと思った。



Mattis Dovier - Inside
上と同じくディザリングが作品のトーンを支配しているアニメーション。昔のグラフィックノベルゲームのようなルック、静かで低い声のナレーションとディザリングの粒子感と噛み合ったスタティックなムード。自分がディザ感に興味を持つキッカケを与えてくれた。


イージングきかせまくったモーショングラフィックスや作画枚数にものを言わせたマッチョなアニメーションでもないカクカク動くグラフィックに、情報量や動的な刺激を抑えても豊かな映像は作れることに静かな驚きを見せてくれる。「表層的な贅沢さがない」というのも趣であり表現であることを教えてくれる。






Habito (2017) from Nicolas Ménard on Vimeo.

Habito (2017)
淡々と整理整頓していく佇まいが美しい。



2017 AMP Awards from Buck on Vimeo.

2017 AMP Awards
ディザリングのくだりで言及したように、動画サイトの解像度向上によって微細な色面も再現できるようになったことで、この手のフラットなアニメーションにも変化が訪れている。大胆なレイアウトと極端な色面分割のコントラストで小さい画角で見ても映像のスケール感を感じさせる美しいアニメーション。


2Dアニメーションを擬似的な3次元で表現するのも作家のパーソナルな画面認識を感じさせて見入ってしまった。映像はシンプルなルックになればなるほど、解像度に依存するのだ。





Marshall McLuhan from Something Savage on Vimeo.

Marshall McLuhan
白と黒の二色とハーフトーンの趣を最大限活かしきったスタティックなアニメーション。フラットルックのくだりとディザ感を演出に取り入れた話しと通じるのだけど、2017年は動画サイトのビットレートの向上によってシンプルな色面分割の表現に幅が広がった年だと思う。

そのキッカケはFITCのカンファレンス映像を皮切りにいわゆるパーティクル的な「ノイズ」「ダスト」的な微細さとは違った「図案的」であったり「設計」 された画面の中で微細な色面を取り入れた映像が多く生まれるようになったと思われる。(日本でもFITCをカンプにしたような映像を多く見かけられるようになる)


アプローチは大きく違えど、過去にハーフトーンを扱った映像は多くあったがそれはあくまで「テクスチャー」であってレイアウトの「オブジェクト」として全面的に扱う映像はなかなか見受けられなかったので衝撃的だった。



The Junction - Lunice & Ango & 247esp | Red Bull Music Academy from Red Bull Music Academy on Vimeo.

The Junction - Lunice & Ango & 247esp | Red Bull Music Academy
短略化しすぎて抽象になりそうでならないモチーフの線画処理やコマが繋がるか繋がらないかギリギリのアニメーションで面白い。空間の認識や具象的なイメージが溶け合う姿に映像の行間を感じる。





24:00 from Thinh Nguyen on Vimeo.

24:00
単純な幾何学形態がポコポコ動いてるだけなんだけど、これも気になって仕方がない。





Howler Monkey by Meier & Erdmann from Víctor Doval on Vimeo.

Howler Monkey by Meier & Erdmann

サウンドの波形を具象的・抽象的なCGに置き換え生成していくアニメーション。アイデア自体目新しさはないのだけど、ポコポコと巨大で重厚感のあるCGが生成される雑な感じが心地よくて気に入っている。




UENO PLANET from UENO PLANET on Vimeo.

UENO PLANET



フラットなルックと広角感のあるアングル。いつまでも眺めていたい。




電気グルーヴ『UFOholic』(Acid Abduction Mix / Video Edit)MUSIC VIDEO

電気グルーヴのMVをまさかのCYRIAKが作るというヤバいMV。CYRIAKの仕事を見てるとアニメーションやモーショングラフィックスを志してほんと良かったと誇りに思える。






欅坂46 『エキセントリック』

演劇のような空間構成、グラフィカルなアングル、吹き荒ぶる木々、物語シリーズを思い出させるような怪しげな世界観と、欅坂のMVは大衆に向けて作られながらも、映像としても面白く作られてるのが素晴らしいと思う。






Dumbfoundead - 물 Water (feat. G.Soul)

韓国のフォトグラファーrotta監督によるMV。rottaさんの写真集はいくつか持ってるけど、その佇まいがそのまま映像になっててめちゃくちゃ嬉しかった。Eunji Pyoとyunjinpetが最高に可愛いので見て欲しい。

ちなみにrottaさんが韓国のアイドルのMVで日本の地下アイドルカルチャーに影響受けたようなMVも作ってたりするのが面白い。



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総括すると、斬新なアイデアモノよりも、しっかりとしたルックや動画サイトの品質向上の恩恵を受けたことによる新しいフラットなルックの映像が印象深くて、発見と喜びに満ちた一年だった。

ディレクションという仕事上、自分は方向性の提示と修正に仕事を集中させるとパーソナルな造形の意識が薄くなってしまう。監督業ってそもそもそういうもんでしょって話しなんだけど、ただ自分は一人で作った映像をvimeoを通じて知ってもらったおかげで大学を卒業してからそのまま映像の仕事が出来るようになったので、作り手のパーソナリティーがしっかり具に出てる映像に惹かれる。

有名なミュージシャンのMVやってCM撮ってメジャー感のある仕事するのも良いけど、映像に興味ある人がポジティブな気持ちで「作ってみたい」「作れるんじゃないか」と影響を与えられるようになりたいなと久々に感じた一年だった。

多分nakaniwaを昨年の春に完成させてからBRDG関連のイベントに沢山出て今年こそ新作作りたかったけど、なかなか時間取れなくて周囲の映像作家がパーソナルティを提示出来る作品を発表してるのを見て、やはり映像カルチャーは良いなと味がしっかり染みたおでんを食べたようなしみじみ感を得た。

2018年の抱負は新作完成させる。




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追記2017.12.27


FNFMLの韓国ポップス特集の記事を経由して存在を知った毎月新しいメンバーを追加してグループが完成する新しいかたちのアイドルユニット「LOONA/今月の少女」のMV。疾走感のあるFuture Bassにのった美しいカラコレとアクション繋ぎのダイナミックな画角の変化、目が回るような劇的な編集と2017年の最後に面食らったMV。

とにかくセットがデカイ、シーンが多い、カラコレ(ライティング)が拘っててカッコイイに尽きるというか。「え?なんでそんなめっちゃズームアウトできるの???スタジオでけーーー」みたいな。根本的に日本のMVよりもバジェットのデカさを感じさせる内容だなーと年末一人で凹んでた。

LOONAの他のMVにも言えるけど、引きと寄りを同ポジ繋ぎとか、シーンが異なるアクション繋ぎとかコンテを切るタイミングでどこまで計算されてるんだろうかと思うほど、編集の繋ぎ方が現場のバイブスだけで作ってない事前に監督が計算して演出を練った繋ぎ方がカッコイイ。

韓国のMVだと、ZICOのMVもヤバいのでチェックして凹んでほしい。。