2017年2月1日水曜日

妄キャリがメジャーで成功するためには「激ヤバ∞ボッカーン!!」を使わざるを得ない



妄想キャリブレーション - 激ヤバ∞ボッカーン!!
Planner:Takeru Nagasaki(I&S BBDO)
Director:Toshitaka Shinoda (amana ijigen)、Takashi Ohashi
Cinematographer:Hiroyuki Yabe(SPACE SPARROWS)
Lighting:Issey TadaSpecial 
Equipment:Koji Iwanaga(RISE grip)
CG Designer:Tetsuji Ono(UZURA), Densuke28, Kenta Mochida, Yasuyuki Yoshida
Graphic Design:Shun Sasaki(AYOND),Yoko Nakanishi(AYOND)
Editor:Takayuki Oguma(DTJ), Makoto Imamura(amana)
Animation & Character Design:Yukie Nakauchi
3D Scan:SUPER SCAN STUDIO(K’s DESIGN LAB)
Choreographer:Mayuka
Producer:Takamasa Yamazaki (amana), Manami Oshiro (amana ijigen)



というわけで、ディアステージ所属のアイドル"妄想キャリブレーション"の新曲「激ヤバ∞ボッカーン!!」のMVを企画をI&Sの長崎豪さん、演出をアマナ異次元の篠田利隆とわたくし大橋が共同で参加してます。

今回のMVはいつもと違って3DCGをふんだんに取り入れているのだけど、3DCGのツールをまともに扱えないということもあり珍しく演出に徹することが多かったので(と言いながらコンポジットも結構やったけど)、その時アニメーションやCG周りで考えてたことをブログにまとめようと思う。




ご覧の通り。。。ボッカーン!!にちなんで、全てを破壊して新たなる進化をとげる、2017年の妄キャリの意気込みを映像に落とし込むために”超必殺技”という格闘ゲームに登場する起死回生の一手をテーマにした。


格ゲーからイメージを引用するにあたって、アイドルのクリエイティブにおけるゲーム(そしてアニメーション)の捉え方がどうしてもファミコンをはじめとした昭和的なイメージが多く、ゲームのイメージに「平成らしさ」や「プレステなどの現行機」のようなルックにすることで新世代のアイドルらしさを演出するという狙いがCGやアニメーションのルックを決めてくうえでの課題だった。






企画段階
MVの企画会議で格ゲー案が出たときは自分はそのアイデアに否定的だった。もしゲームをテーマにするなら、妄キャリは平成のアキバ文化を背負ったアイドルにさせたかったし、それだと現行機のようなルックのCGにする必要があったからだ。

現行機のルックで格闘ゲームをテーマにした場合3DCGのスキルとノウハウが必須なのは想像できるが、おれに3DCGのノウハウもなかったし、目指すクオリティのために必要な予算があるのか疑問だった。そんな不確定な部分が多すぎる中で責任を背負わされるのが、とにかく嫌だった(後に予算の面においてはプロデューサーが全力でサポートしてくれた)

しかし、ヒゲドライバー曲の現代的なベースミュージックと妄キャリが組み合わさった進化に対してMVもそれ相応に変化が必要だったので、3DCGをふんだんに取り入れた格ゲー案で進むことに企画会議をしていくなかで納得はいった。

とはいえ、ゲームのパロディという企画の映像で残念なのが、ゲームというインタラクションやその時代を反映した体験が付随する表現を、リニアな映像であるMVが頑張ってその趣を再現しても、本物にはかなわないしょっぱさを感じていた。

パロディという演出自体は否定しないけど、どうしてもゲームのパロディには「イメージの更新」という今の時代に生きる映像ディレクターとしてのミッションが果たせているだろうか?という疑問があったからだ。

ゲームは当時のテクノロジーの限界や制限が結果として面白いルックや趣を作っている。そういった時代背景や文脈を無視してゲームをパロディすることにハマれなかったのである。(当時ブラウン菅で見ていた滲んだドット絵を精細な液晶モニターで見ることでパキっとしたルックになること自体には新しい意味はあるかもしれない)

そういうこともあって、ゲームの趣をただ再現するんじゃなくて、実際のゲームが表現しない映像のトーンや異なる文脈を自覚的に取り入れたりすることは「自分の意見」を言及するのに似ていると思う。

おれがゲームのパロディをダサく感じる理由がそこでわかった。結局「自分の意見」のない映像が嫌いということだった。だから実際の格ゲーにはないけど組み合わせることによって表現が面白くなるスパイスや妄キャリらしさを取り入れれば良いのではないか、という考えの整理が働き始めた。



格闘ゲームらしさと妄キャリらしさ
MVはリニアな映像表現なので、格ゲーにとって一番重要なバトルシステムを考える必要はない。そのかわり格闘ゲームらしい「記号」とパロディで終わらせないオリジナリティとしての「記号」を開発する必要があった。


ひとまず、MVの中で格闘ゲームらしさを描くにはどうすれば良いか?約3分ほどの短い尺の中で「格ゲーのパロディ」であることを直感的に伝わるように描くときに必要な要素が3つある。

・UI(ユーザーインターフェイス)の趣
・超必殺技の演出
・キャラクターの造形

この3つがMVを見る人に格ゲーという企画を伝えるのに必要な要素で、そこからパロディ以上の「妄キャリらしさ」を織り交ぜたい。それが

・エフェクトCG

である。



UIの趣
格闘ゲームのUIには、そのゲームの世界観を反映する傾向がある。たとえばギルティギアシリーズであればスレイヤーズやオーフェンのようなJ-ファンタジーのような世界観と、メタルサウンドをふんだんに取り入れたBGMなどの要素が組み合わさった重厚なデザインのUIになっている。


ギルティギアxrdの対戦画面。アイアンメイデンのロゴを彷彿させるフォントもある


今回のMVでは格ゲーにくわしくない人でも分かるように初期のストリートファイターをイメージしつつ、ストリートファイターVやKOF14のようなスポーティーで直線的なデザインをベースに、MV映えするようなフラットなルックになるようにとデザインチームのAYONDにお願いした。

画面下の超必殺技を繰り出すのに必要なゲージには「MOSOゲージ」というサムライスピリッツの怒りゲージを彷彿させるようなデザインを組み合わせている。


サムライスピリッツの怒りゲージ


KOF14のUI

カンプにも展開したストVとKOF14の対戦画面。さすがHD時代の格闘ゲームのUIといえる、TVモニターで遊ぶことを想定して文字情報は小さくデザインも繊細なトーンになっている。しかし、これをそのままMVで再現するとスマホの画面だと細かいデザインが潰れてしまう。
















MVで使われてるUI。PS3頃のような一世代前のデザインで、現行機の格闘ゲームのデザインに比べるとやや大味に思えるが、youtubeの画角やスマホなどの小さいモニターでMVを見ることを考えるとちょうど良いデザインと言える。(AYONDにお願いしたときは現行機のイメージを希望してたが、あがりがスト2ライクになったものの格ゲーにくわしくない人でも楽しめるニュアンスになったので結果オーライ)


超必殺技の演出
超必殺技を発動したときのカットインは、コンテは篠田さんが書きつつも元ネタ探しなどは俺やプランナーの長崎さんも交えてアイデア出しをした。近年の格ゲーでは超必殺技を発動させるとダイナミックなカメラワークが存在し、「起死回生の一手である超必殺技のスペシャリティ」を感じる演出をを考える必要がある。

先に書いたように1Aメロの超必殺技のコンテは篠田さんが書いたのでおれがここで自慢げに言及するのもおかしいのだが、ワイヤーアクションを一切使わずメンバーのバイタリティだけでアクションを撮る必要があって、篠田曰くグリーンバックと3DCGのエフェクトを絡めれば複数のカットをつないだときの空間の辻褄の合わなさとかは、ハイスピードカメラで撮影してアクションつなぎで編集とCGを組み合わせて自然に見せるというアイデアだった。






まひるちゃんの回し蹴りのシーンのエフェクトは本編集を担当したエディターの尾熊さんが担当。見事にキムカッファンの飛燕斬のようなグラフィカルな残像を再現してくれました。



これが本家キムの飛燕斬である。



左: KOF14の超必殺技のカットイン
右: 激ヤバのカットイン

ちなみに超必殺技に必要なゲージが一番手前になっていて、そこからキャラクター→体力ゲージ→背景とレイヤー状になっているのも重要。カットインしたときに体力ゲージで顔が隠れないようにするための配慮があったんだなと再発見しました。



キャラクターデザイン
今回もキャラクターアニメーション・デザイン周りを中内さんに担当してもらったんですが、これまでのアニメーションのトーンだと曲のスピード感や男の子っぽいかっこよさに比べると可愛すぎるという問題があり、今までとは違った作風にチューニングする必要があった。





左:「おもてなでしこ伝承中」の羽咲ちゃん

右:「激ヤバ∞ボッカーン!!」の羽咲ちゃん

中内さんのアイデアで頭身を6頭身に伸ばしつつ陰影を取り入れたり、ストリートファイターシリーズでよく目にする「青い反射光」を取り入れる要望をお願いしたり、おもてなでしこ伝承中と見比べると作風に変化など「格闘ゲーム」という肉体を扱ったゲームらしいチューニングを取り入れた。









「全身のシルエットだけ見ても誰か分かるようにする」というテーマも幻想恋花火の頃から変わってないテーマだ。実は、この「シルエットだけ見ても〜」は子供のころ好きだった格ゲーのディレクターのインタビュー記事を読んだときに「格ゲーはシルエットだけ見て誰か分かるようにデザインすべし」という言及の影響がある。つまり妄キャリのアニメのデザインはそもそも格ゲーっぽい。





今回のMVで一番よく描けてると感じるのが伊織ちゃんのシーン。



エフェクトCG
先にも言及したように、ディアステのアイドルといえばエフェクトアニメーションと言って良いほど、でんぱ組.incの「でんでんぱっしょん」以降、エフェクトアニメーションがMVに印象的な記号として残る存在と言えるようになった。

インディーズ時代なら金田伊功を継承したような商業アニメの文脈の作画エフェクトを描いて良かったんだけど、今回の楽曲はヒゲドライバー氏作曲の疾走感があってキャッチーなメロディと、テキサムさん編曲によるドラムンベースとダブステが融合した現代的なベースミュージックやロックサウンドということもあり、今までのノリでは駄目だと考えていた。(決して作画アニメのエフェクトを否定してるわけじゃなくて、昭和の時代から続く商業アニメーションの系譜の表現を入れるだけでは新鮮さが足りない)




ディアステージのアイドルも過去を遡ると当時最先端のアーティストや文化との交流があった。たとえば最前ゼロゼロのミキオサカベやファンタジスタ歌磨呂、セミトラといったファッションやwebカルチャーといった当時新しい流れの作家達との交流によって鋭利なカルチャーを背負わせていたように思える。

妄キャリの場合、時代的にもvimeoやTumblrをはじめとしたポートフォリオサイトの成熟もあってCGやアニメーションに(私含めて)webカルチャーから生まれたデザイナーを取り込もうという狙いがある。それが中内さんなり佐々木さんそして吉田さんなんだけど、今回はさらによりネットカルチャーないしvimeoカルチャー寄りのCGアーティストをスタッフに入れたく、でんすけ28号くん、そして急遽ピンチヒッターとして持田寛太くんが参加する運びとなった。


バグストローク

持田寛太氏によるKOパート。


超必殺技を発動させるときに出現するストロークCGのデザインはでんすけ28号によるものなんだが、このストロークのルックが今回のMVの記号として機能させるためにとても重要な存在といえる。

そもそもなぜストロークが必要なのか。それは近年の格闘ゲームがエフェクトCGにそのゲームのアートディレクションのアイデンティティを込めてる傾向があるからだ。



例えばストリートファイターVでは、CGのルックを油彩画のような筆のタッチが残るようなテクスチャを施してるので、特殊な技を発動させるときに油絵の筆跡のようなストロークが走るようになっている。


















また、前作ストリートファイター4では、「墨シェーダー」という墨絵のようなストローク表現が必殺技やKO時のエフェクトなど随所に散りばめている。




改めて激ヤバのエフェクトCGを見るとMichael Paul Youngのような、写真や画像のテクスチャを無理やり引き伸ばしたようなルックになっている。(制作時、スタッフの間で"バグストローク"と呼んでいた)

今回のMVは超必殺技(格闘ゲーム)が題材にしつつ、「ボッカーン!!」という曲の記号といえるフレーズをビジュアルに落とし込むにあたってバグ(破壊やエラーの象徴)のようなツールの誤った使い方で表現できるルックが良いんじゃないか、という話でまとまった。


02122015 from Michael Paul Young on Vimeo.




群衆シュミレーション




















持田寛太氏の低音パートと吉田恭之氏による無双パート
3Dスキャンを使ったCGアニメーションでは大量のオブジェクトが乱舞する、所謂「群衆シミュレーション」を扱ったパートになっている。vimeoでも群衆シュミレーションを扱ったCG表現は人気のカテゴリの一つであり、モノに溢れた光景が情報過多な今の時代を反映してるように思えたりする。


I've fallen, and I can't get up! from Dave Fothergill vfx on Vimeo.


De Staat - Witch Doctor (Official Video) from STUDIO SMACK on Vimeo.


Verizon Better Matters "Door" from Buck on Vimeo.

MVを制作するときに現代的なベースミュージックに呼応するルックにするために「vimeoっぽさを出す」という狙いがあり、そのときの3DスキャンCGを扱うことが決まったときにvimeoの表現カテゴリの一つといえる群衆シュミレーションをやる機会だと考えた。