2017年を総括するにはちょっと早い気もするけど、二年ぶりに今年の短編映像・MVの傾向と気になった作品について言及していきたい。
昨年は気に入ったMVや短編作品を年末年始におさらいする記事書くの飽きたなと思って2016年はお休みしてました。vimeoの動画カルチャーも洗練されてきて「vimeo臭」のする作品にやや飽きつつ、ここ数年で動画配信サービスがyoutubeやvimeoの特権ではなくなり、twitterやfacebookなどのSNSでも映像は見れるようになったが、それは映像表現の競争がより激化したと言える。
それによって、バズ的な仕掛けや企画性、そのアイデアを強固にしていく予算と人材によるパワープレイが我も我もと押し寄せてきて自分は正直面食らったし、映像へのモチベーションはかなり落ち込んだ。
金と人材に物言わせたパワープレイ的な映像は、限られた立場の人にしか作れないし何より不特定多数の大衆が「わかる」ものにしなければならないという絶望に近い感情を抱くのだけど、作り手のパーソナルな関心であったり、音楽のムードを適切に汲み取った映像が沢山見れたのはとても自分にとって救いだった。
ものづくりとは限られた人間が作れるものではなく、開けてた方が圧倒的に良い。テクノロジーの進歩によって誰でもモノづくり出来ることを否定的に思う立場の人(相場が安くなる事への危惧とか)もいると思うけど、皆々が競争相手になるわけじゃない。
「映像って良いな」「自分もこういう映像を作りたいな」というポジティブな気持ちを抱かせてくれる作品に出会える文化って良いなと素直に思えた方が良い。
特に自分にとって、IUのPaletteのMVに出会ったのが大きい。IUのMVについては後々言及するけど、今年の傾向としては「温度感」みたいなものが優れてる映像が多く現れたように思う。扱う技巧のバランス感覚であったり文脈の構築の仕方とか、センセーショナルな斬新さで勝負するのとは違った落ち着いた切り口の映像を紹介したい。
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IU - Palette
私的2017年を象徴するMV。 やや雑なモーショングラフィックスやワイプが音楽のややユルいグルーブとムードを絶妙にとらえている。それに加え、美しい物撮りの唐突なインサート、そしてIUの艶かしさといい、編集の心地よさと相まって写真集を見ているかのような充実感がある。
ミュージシャンの漠然としたイメージをカメラが引きと寄りで撮ってあとで編集するようなグラビア的な側面を持ったMVは沢山あるけど、IU自身の歌手としての積み重ねてきた歴史をエモくなりすぎないような温度感で表現してるのが新しい。オシャレな実写MVってこういうことだなと目に焼きついた。
Cup Of Smoke from King Deluxe on Vimeo.
Cup Of Smoke
身内の作家で一番活躍したのはでんすけ28号なんじゃないかと思うくらい、今年の彼の躍進は凄まじいものを感じた。学生時代の彼の作品はCGのもつエラー・バクを意図的に表現に取り入れる作風だった。近年ではそのバグは息をひそめる代わりに、敬遠されがちなCGのもつ空虚さ・冷たさが作品を支配し、その冷たさがとても心地よい。
1993年のジュラシックパークを皮切りにCGの本質であるシュミレーションは、特撮技術の代用品として需要が高まっていったが、デヴィット・オライリーの登場以降CGが「現実の再現」ではなく油絵の具や岩絵の具と同じようにその画材でないと出せない趣があるという発見を得た作家達が出現するようになった。でんすけ君もその一人なんじゃないかと思う。
身内の作家で一番活躍したのはでんすけ28号なんじゃないかと思うくらい、今年の彼の躍進は凄まじいものを感じた。学生時代の彼の作品はCGのもつエラー・バクを意図的に表現に取り入れる作風だった。近年ではそのバグは息をひそめる代わりに、敬遠されがちなCGのもつ空虚さ・冷たさが作品を支配し、その冷たさがとても心地よい。
1993年のジュラシックパークを皮切りにCGの本質であるシュミレーションは、特撮技術の代用品として需要が高まっていったが、デヴィット・オライリーの登場以降CGが「現実の再現」ではなく油絵の具や岩絵の具と同じようにその画材でないと出せない趣があるという発見を得た作家達が出現するようになった。でんすけ君もその一人なんじゃないかと思う。
imai / Fly feat.79,中村佳穂
機構や図形楽譜を感じさせるモチーフの気持ちの良い運動性と、ストップモーションの良さ・魅力で言及されがちな「アナログ感、温かみ」みたいなモノの押し付けが感じられない映像の温度感・距離感が絶妙。
自在に動くカメラワークやコマ撮りの物量とかも凄いんだけど、アイデアや技巧の驚き以上に映像の佇まいやお餅や練り物が動くだけでこんなに映像って楽しくなるのかと感じさせる感動が詰まっている素晴らしい映像だった。このMVを作った麦君はimaiさんの音楽が本当に好きなんだなと感じさせる。彼の最高傑作だと思う。
Tamas from Ruslan Khasanov on Vimeo.
Tamas
動画配信サービスのビットレート向上の恩恵を受けた作品。数年前なら圧縮で潰れてしまうような細かいディザリングのルックを取り入れた映像が出現し、ディザ感というネットに画像をアップするときの軽量化する際の技術が表現に応用しているところが面白い。
おそらくオイルペイントをマクロレンズで撮影した実写の撮影素材をベースにディザリングフィルターを加えてアブストラクトなCGのような抽象性の高いルックに仕立て「オイルペイント」という具象的なノイズを排したところが良かった。
トーン(色調)を細かい点描で描くことでビットマップの塊が蠢くだけでゾクゾクするし、CGの本質はシュミレーションではあるけど、もう一方でレンズを通さずともプリミティブな光を描けるんだなと再確認できる。今回紹介した映像は実写素材をベースにディザリングフィルターで加工した映像だけど、ジェネ系とかアブストラクトなCGでディザ感のある映像を見てみたいと思った。
Mattis Dovier - Inside
上と同じくディザリングが作品のトーンを支配しているアニメーション。昔のグラフィックノベルゲームのようなルック、静かで低い声のナレーションとディザリングの粒子感と噛み合ったスタティックなムード。自分がディザ感に興味を持つキッカケを与えてくれた。
イージングきかせまくったモーショングラフィックスや作画枚数にものを言わせたマッチョなアニメーションでもないカクカク動くグラフィックに、情報量や動的な刺激を抑えても豊かな映像は作れることに静かな驚きを見せてくれる。「表層的な贅沢さがない」というのも趣であり表現であることを教えてくれる。
Habito (2017) from Nicolas Ménard on Vimeo.
Habito (2017)
淡々と整理整頓していく佇まいが美しい。
2017 AMP Awards from Buck on Vimeo.
2017 AMP Awards
ディザリングのくだりで言及したように、動画サイトの解像度向上によって微細な色面も再現できるようになったことで、この手のフラットなアニメーションにも変化が訪れている。大胆なレイアウトと極端な色面分割のコントラストで小さい画角で見ても映像のスケール感を感じさせる美しいアニメーション。
2Dアニメーションを擬似的な3次元で表現するのも作家のパーソナルな画面認識を感じさせて見入ってしまった。映像はシンプルなルックになればなるほど、解像度に依存するのだ。
Marshall McLuhan from Something Savage on Vimeo.
Marshall McLuhan
白と黒の二色とハーフトーンの趣を最大限活かしきったスタティックなアニメーション。フラットルックのくだりとディザ感を演出に取り入れた話しと通じるのだけど、2017年は動画サイトのビットレートの向上によってシンプルな色面分割の表現に幅が広がった年だと思う。
そのキッカケはFITCのカンファレンス映像を皮切りにいわゆるパーティクル的な「ノイズ」「ダスト」的な微細さとは違った「図案的」であったり「設計」 された画面の中で微細な色面を取り入れた映像が多く生まれるようになったと思われる。(日本でもFITCをカンプにしたような映像を多く見かけられるようになる)
アプローチは大きく違えど、過去にハーフトーンを扱った映像は多くあったがそれはあくまで「テクスチャー」であってレイアウトの「オブジェクト」として全面的に扱う映像はなかなか見受けられなかったので衝撃的だった。
The Junction - Lunice & Ango & 247esp | Red Bull Music Academy from Red Bull Music Academy on Vimeo.
The Junction - Lunice & Ango & 247esp | Red Bull Music Academy
短略化しすぎて抽象になりそうでならないモチーフの線画処理やコマが繋がるか繋がらないかギリギリのアニメーションで面白い。空間の認識や具象的なイメージが溶け合う姿に映像の行間を感じる。
24:00 from Thinh Nguyen on Vimeo.
24:00
単純な幾何学形態がポコポコ動いてるだけなんだけど、これも気になって仕方がない。
Howler Monkey by Meier & Erdmann from Víctor Doval on Vimeo.
Howler Monkey by Meier & Erdmann
サウンドの波形を具象的・抽象的なCGに置き換え生成していくアニメーション。アイデア自体目新しさはないのだけど、ポコポコと巨大で重厚感のあるCGが生成される雑な感じが心地よくて気に入っている。
UENO PLANET from UENO PLANET on Vimeo.
UENO PLANET
電気グルーヴ『UFOholic』(Acid Abduction Mix / Video Edit)MUSIC VIDEO
電気グルーヴのMVをまさかのCYRIAKが作るというヤバいMV。CYRIAKの仕事を見てるとアニメーションやモーショングラフィックスを志してほんと良かったと誇りに思える。
欅坂46 『エキセントリック』
演劇のような空間構成、グラフィカルなアングル、吹き荒ぶる木々、物語シリーズを思い出させるような怪しげな世界観と、欅坂のMVは大衆に向けて作られながらも、映像としても面白く作られてるのが素晴らしいと思う。
Dumbfoundead - 물 Water (feat. G.Soul)
韓国のフォトグラファーrotta監督によるMV。rottaさんの写真集はいくつか持ってるけど、その佇まいがそのまま映像になっててめちゃくちゃ嬉しかった。Eunji Pyoとyunjinpetが最高に可愛いので見て欲しい。
ちなみにrottaさんが韓国のアイドルのMVで日本の地下アイドルカルチャーに影響受けたようなMVも作ってたりするのが面白い。
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総括すると、斬新なアイデアモノよりも、しっかりとしたルックや動画サイトの品質向上の恩恵を受けたことによる新しいフラットなルックの映像が印象深くて、発見と喜びに満ちた一年だった。
ディレクションという仕事上、自分は方向性の提示と修正に仕事を集中させるとパーソナルな造形の意識が薄くなってしまう。監督業ってそもそもそういうもんでしょって話しなんだけど、ただ自分は一人で作った映像をvimeoを通じて知ってもらったおかげで大学を卒業してからそのまま映像の仕事が出来るようになったので、作り手のパーソナリティーがしっかり具に出てる映像に惹かれる。
有名なミュージシャンのMVやってCM撮ってメジャー感のある仕事するのも良いけど、映像に興味ある人がポジティブな気持ちで「作ってみたい」「作れるんじゃないか」と影響を与えられるようになりたいなと久々に感じた一年だった。
多分nakaniwaを昨年の春に完成させてからBRDG関連のイベントに沢山出て今年こそ新作作りたかったけど、なかなか時間取れなくて周囲の映像作家がパーソナルティを提示出来る作品を発表してるのを見て、やはり映像カルチャーは良いなと味がしっかり染みたおでんを食べたようなしみじみ感を得た。
2018年の抱負は新作完成させる。
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追記2017.12.27
FNFMLの韓国ポップス特集の記事を経由して存在を知った毎月新しいメンバーを追加してグループが完成する新しいかたちのアイドルユニット「LOONA/今月の少女」のMV。疾走感のあるFuture Bassにのった美しいカラコレとアクション繋ぎのダイナミックな画角の変化、目が回るような劇的な編集と2017年の最後に面食らったMV。
とにかくセットがデカイ、シーンが多い、カラコレ(ライティング)が拘っててカッコイイに尽きるというか。「え?なんでそんなめっちゃズームアウトできるの???スタジオでけーーー」みたいな。根本的に日本のMVよりもバジェットのデカさを感じさせる内容だなーと年末一人で凹んでた。
LOONAの他のMVにも言えるけど、引きと寄りを同ポジ繋ぎとか、シーンが異なるアクション繋ぎとかコンテを切るタイミングでどこまで計算されてるんだろうかと思うほど、編集の繋ぎ方が現場のバイブスだけで作ってない事前に監督が計算して演出を練った繋ぎ方がカッコイイ。
韓国のMVだと、ZICOのMVもヤバいのでチェックして凹んでほしい。。
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