2011年2月7日月曜日

SSTV CANVAS_1.0.0 Animatope(2)





僕は普段からビジュアル・ミュージックをテーマにビデオ作品をいくつか作ってきましたが、その多くがエレクトロニカや電子音響系のサウンドを可視化することがほとんどだったし、関わってきた人もメディア系に属する人達でした。しかし今回のIDでは普段関わった事のない文脈のコンポーザーさんと歌手の方とのコラボレーションが特徴だと思います。


コンポーザーは様々なインディペンデントアニメーションの音楽を手掛けた羽深由理さん。羽深さんは音大で映画音楽の作曲を専門的に学んできた方で、彼女が関わった作品の代表作として大桃洋祐監督の「輝きの川」のBGMを手掛けています。




羽深さんは幼少のころからバイオリンやクラシックを学んでおり「生音の良さ」に対する理解の深さと、作曲理論を活かした「アイディアに合った音楽」が作れる方だと判断しました。また、今回のIDの制作の意気込みとして自分自身の表現を開拓したかったので、まったくの異分野のクリエイターとコラボする事も理由の一つです。もともと、羽深さんとの出会いは輝きの川ではなく、その後に制作された同じ大桃監督の「Farm music」というミュージカル風のアニメーションでした。音楽の完成度が非常に高く、映像に全然負けてなかったのがすごく印象に残ってます。





そして、もう一人コラボレーションした方でシンガー兼ミキサーのPUPI君。彼の起用は羽深さんの提案でした。どんな雰囲気の曲にオノマトペをのせるかという話し合いの中で、一人の歌手が曲中のオノマトペを歌う、、、つまりアカペラ的な感じにしようと決まった際にPUPI君の作品を紹介してもらいました。




PUPI君は普段はニコニコ動画で「全部俺の声」というジャンルで高い人気を誇っている「歌い手」の方で、FFやドラクエなどのゲームミュージックや、「歌ってみた」系のミキサーとしても活躍されています。PUPI君は歌手としてのスキル(女性の音域まで出せる)やミキサーのノウハウ、そして声優のような声色を自在に操るといった、僕が求めている能力を全て備えていたのに驚かされました。


今回のIDの制作は、作業そのものは完全に分担ですが、ビデオや音楽の演出は三人でやり取りしました。その制作の過程は。。

◯劇中で使うオノマトペの候補をひたすら挙げる
オノマトペといっても何か決まり事がないと選びきれないので「動き」を表すオノマトペだけを使う事に決定。

◯オノマトペの種類を振り分ける
候補に挙ったオノマトペを清音と濁音、半濁音などの種類に振り分けて曲に使えるかどうか判断。特に濁音や半濁音が多過ぎると曲にした時に音楽が濁ったような印象になるので、濁音などはリズム隊やアクセントとして使いました。

◯ストーリーの流れが決定
生命の循環を連想させるストーリーに決まった時、架空の生命観というか時系列のイメージでオノマトペの流れを考えました。最初に使うオノマトペを「ドックン」最後は「わらわら」に決定して、その間をどう補完してくかを三人で話し合いました。

◯デモ音源とスケッチボード制作
羽深さんにはMIDI音源でリズムだけ決めてもらい、僕はカンタンなスケッチをキャッチボールするように投げ合い、そこから少しずつ完成に近い形のMIDI音源やデザインボードに発展させました。

ちなみにここまで来るのに約二ヶ月かけています。。。

◯アニメーション制作と音源収録
デザインボードとMIDI音源がフィックスしたら本格的にアニメーションと音源の収録に入ります。ここで難しかったのは、アニメーションを最初に作ってからPUPI君の声を収録した後に、声とアニメーションを合わせてみるとシンクロ感が上手くいってない所がありました。音源の収録語に、アニメーションを一部作り直したりしましたのを覚えています。

声も楽器音も同じ音に違いはないはず(周波数の組み合わせ)ですが、IDの制作の過程で映像と肉声をシンクロさせる事に難しさを感じました。楽器音とは違って言葉には「音素」と「意味」が含まれています。音素というのは母音と子音の事で、例えば「にょき」ならn,y,o,k,iというように五つの音素が含まれてます。異なる音素の絡み合いに よって楽器音にはない音の詰りのようなニュアンスを感じるので、実際に音に合わせてアニメーションを加えてみると、数フレームの動きの違いで音と映像のシ ンクロ感がまったく異なる事が分かりました。音素の組み合わせが複雑ではないもの、、、特に「ッ」を使うオノマトペは、イントネーションによって感じ取れるアニメーションの緩急を試行錯誤させられました。

余談ですが、収録の際にPUPI君が声優のようにビデオを見ながら歌を録音するスタイルをしていたのはとても楽しかったですね。


その後、音源のミキシングをPUPI君に仕上げてもらってビデオが完成した、という感じになりました。ミキシングの際に重要だったのは「生音を活かす」事でした。あまりエフェクトをかけて肉声の生々しさが消えてしまったり、オノマトペを使ってるか分からなくなる可能性があったのです。



今回のビデオではオノマトペと映像がシンクロする事に着目されがちですが、実はビデオの構造と音楽の構造もシンクロしています。映像の展開に応じてどんどん画面上に移動するようになっていますが、音楽もそれに応じてどんどんキーが高くなっています。作曲を担当した羽深さんがビデオの構造を汲み取ってくれました(実は変拍子も使われてます!)。下の画像はアニマトペの楽譜(実際の音源はこの楽譜からさらに書き加えています)とビデオのシーケンス画像です。

















サムネは下から上へ上がってゆくように見ていただければビデオの構造が分かると思います。




プロットからビデオのフィックスまで約3ヶ月時間を使って制作しました。たった30秒のアニメーションでこれだけの手間ひまをかける事も当分はないかもしれません。それと面白かったのが、三人とも普段自分の作品を公開してる場が異なる事でした。僕はvimeoだし羽深さんはyoutube、PUPI君はニコニコ動画。。。CANVASからの各メンバーのリンクを見ても三人とも雰囲気が全然違っているのが面白かったです。

今回のID制作で異なる文脈の方とのコラボや、言葉の可視化といった自分にとって様々な発見と学びを得ました。そしてなによりも、今回のIDは自分の力以上に羽深さんとPUPI君の協力あってなし得た事だと思っています。クレジットにディレクターが僕の名前しか載ってないのが何とも申し訳ない気持ちでいっぱいです。。

羽深さんとPUPI君とは、またなにか別の機会で共作出来ればと思います。かなり刺激的な時間を彼らと過ごせて本当に幸せでした。。。そしてIDを作るキッカケを与えてくれた担当のSSTVの方にも感謝です。ありがとうございました!

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